2018年10月29日月曜日



今寝ていたら、久しぶりに「にゃああぁぁ!」と
チビ助の挨拶が大きな声ではっきり聞こえて目が覚めた。


もし肉体がなくなった後も魂のようなものがどこかに揺蕩う事があるとするなら
どうか肉体があった時の苦しみから解放されていて欲しい、といつも思っているので
「大丈夫!元気になった!」と伝えるためにわざわざ来てくれたのかもしれないな。
あんなに明るく溌溂とした声を久しぶりに聞いた。


……翻っておみその奴めはめんどくさがりやがって、
あれからただの一度も化けて出て来やしねえ。
ふてえ野郎だ。


共に在ったのがほんの七か月の中の一瞬で、言葉も種族も違うけれど
それでも心は確かに通じていた、と思いたい。










2018年10月28日日曜日

チビが駆け抜ける




冷たい風が吹き抜ける春の終わりの夜、母が子猫を拾ってきた。


車がごうごうと絶える事無く走り抜ける国道を、大きな声でにゃあにゃあと叫びながら
足を引きずりずるずる徘徊していたのを、仕方なく連れ帰ったそうだ。





チビと名付けられたうちの猫の写真
「チビ」




動物病院での診断結果は


・足の関節に障害があり、足を引きずる
・普通の猫と腸の巻き方が逆な上に、途中で閉塞している
・猫白血病陽性


これらの問題にご覧の通り


・なかなかのブス


までが加わり、生まれながらにして無駄な苦難をいくつも余計に背負った子である。


母は当初「ブスだから別に名前はいらないわね」と言っていたが
動物病院で診察するにあたり、どうしても名前が必要だ、とのことで
とりあえず「チビ」と、RPGで「ああああ」と名付けられてしまった勇者と同じぐらい
やる気の感じられない量産型丸出しな名前を授けられた。


上に挙げた複数の問題の中でも、特に猫白血病は非常に恐ろしい病気らしいが、
それでもある程度大人になってきて免疫力が高まれば
自力でウィルスを撃退でき、完治する可能性も少なからずあるものらしい。


チビは日々しっかりとご飯を食べて、会うたびどんどん元気になり
悪かった足も成長するに従って順調に治っていったようで
実家に立ち寄りドアを開けた途端
玄関先の足元で「いらっしゃ~い!!」と既に待ち構えているか、
あるいは俺の顔を見た瞬間「にゃあにゃあ!!」と大声で叫びながら
ずどどどど、と猛烈な勢いで走り寄って足元をくっついて回り、
あぐらをかいて新聞を読めば、その上にどっかりと座り込んで
「うぇ~い☆」と、どや顔を決めるようになった。


これは猫白血病も問題なさそうだな、きっと治る、チビは大丈夫、と思った。

が。

ある日突然、俺の顔を見ても飛んでこなくなり、大好きなちゅーるもカロリーエースも
食べ物を、何一つ食べなくなり、病院に連れて行くと
白血病で免疫力が低下していたせいか「猫伝染性腹膜炎」を発症してしまったそうだ。


猫伝染性腹膜炎の致死率はほぼ100%だそうで
現状ではインターフェロンの投与も延命措置にしかならず
2018年現在、腹膜炎のタイプによっては有効なようだ、とされる治験薬は登場したものの
一般的な治療法は確立されていない、との事。


「ほぼ100%」と言っても、そのデータはあくまで過去に起きた事象の積み重ねであって
そういう結果に至る可能性が極めて高いであろう、という話にはなっても
そうならない可能性が無い、という証明にはならない。

なので、チビ助は死なない、治る、という前提で
暇さえあれば手から治れ治れと治癒エネルギーを送ったりしてみたのだが
やはり俺に回復魔法の才能は全くないらしく、
にゃあともごろごろとも言わなくなり、何も食べず、
ただふわりと座ったままどんどん痩せて行き
2018年10月23日、どこか遠くを穏やかに見つめながら静かに静かに息を引き取った。


今日、火葬に行き、そこは昔から全面的に信頼の置ける
本当に丁寧な素晴らしいペット霊園兼火葬場で、
人間の葬儀~火葬場で行われる、妙に雑な流れ作業の火葬とは全然違い
綺麗なふわふわの枕と、体に清潔なシーツをかけてもらい
たくさんの綺麗な花に囲まれ、蓋にかわいいハート模様が描かれた棺の中で眠るチビ助は
どこの王様にだって絶対負けない、最高の旅立ちにする事ができた、と思う。


火葬が始まってからほんの一時間でチビ助は猫の形をした骨になり
こちらは生きなければならない理由が何一つない日々をだらだらと重ね続ける中で
仲の良い猫が食べられなくなり、声が出なくなり、歩けなくなり
日毎に弱って死んでいくのをただ見守り続ける事ぐらいしかできない人生を
無理に延ばし続けなければならない意味など何かあるのだろうか、と
チビ助の骨を骨壺に黙々と納めながら思ったが、俺の人生には何の意味も価値もなくても
チビ助にとって、新聞をぐしゃぐしゃにしながら膝に乗ってどや顔を決めていた僅かな時が
冷たい風の夜よりはましな、少しは意味のある時間であったように願う。